「悪人」(吉田修一)

福岡と佐賀を結ぶ国道にある峠で、保険外交員の若い女の絞殺死体が発見される。捜査が進むにつれ、その女性・佳乃が出会い系サイトで出会った男が容疑者として浮かんでくる。他の女性と逃走するその男や、家族や友人など関係者の視点から物語はつづられる。果たして犯人の男は、単純に言う意味での「悪人」だったのか…?
吉田さんは、芥川賞とった「パーク・ライフ」(たしか…)だけ読んで、「芥川賞、やっぱりオチなくて嫌い!!」と思ってそれっきりでした(笑)。その後ずいぶんエンタメ路線になってるなあ、とは思っていましたけど、この「悪人」はもう完全にエンタメ系ですね。「この先どうなっちゃうんだろう」という野次馬視点で一気に読んでしまいましたが(あ、でも最終章直前あたりは中だるみかも…)、「なんか、こういう先行作品あったかも」という印象は否めないかもしれません。吉田さんの個性は見えにくかったかなあ…。でも、ラスト近くで佳乃の父がある人物に言う「そうやってずっと、人のこと、笑って生きていけばよか」というセリフは、胸に刺さりました。
あと、ここから先はちょっとネタバレありです。(^_^;)ラストで犯人と一緒に逃避行した女性の供述から、それまで犯人を「可哀想」と思いこんで読んできた私たち読者も、「もしかしたら騙されてた…?」とふと気づかされて、どっちともとれるように終わる感じなのは、「なかなかやるな!」と思いました。でも、きっと本当はそんなに穿って見なくてもよくて、やっぱり彼女のことを思って逃がしたんですよね…?うーん。

悪人

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